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【ひらばのひと】史上初!漫画で知る「講談師」の世界とその日常

おすすめマンガ『ひらばのひと』(背景は寄席のめくり看板) 身軽な生活
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歌舞伎や落語などの日本の古典芸能の世界を描いた漫画は、数こそは多くないものの、昔から漫画界で着実にひとつのジャンルを築いてきました。

最近では、「落語」をテーマにした『あかね噺』が人気ですね。

では、同じ古典芸能でも「講談」はどうでしょうか?

とかく落語家と比較されて、「絶滅危惧”職”」とさえ揶揄される講談師の世界。
しかし、そこには落語とは一味違った歴史と味わいがあります。

今回ご紹介する作品『ひらばのひと』は、おそらく史上初になるであろう「講談」と「講談師」の世界を本格的に描いた漫画です。

『ひらばのひと』の基本情報

基本情報

『ひらばのひと』のあらすじと登場人物

あらすじ

落語家との認知度の差は歴然で、絶滅危惧「職」とまで言われる講談師の世界。そんな世界に飛び込んだ「前座」2年目の泉太郎と、その姉弟子で「二つ目」の泉花、それぞれの日々是修行の日常を描きます。そんな中、かつて謎の失火で幕を下ろした最後の講談専門寄席「音羽亭」の存在が、物語に薄い影を落としてくるのでした。

主な登場人物

龍田泉太郎 : 駆け出しの「前座」講談師。飄々とした性格だが、講談にかける想いは熱いものがあり、講談の最盛期を体験できなかったことに疎外感を感じることも。講談界で久々に入門してきた待望の男性講談師のため、常連ファンからは辞めたり落語に引き抜かれてしまうことを過度に心配されている。

龍田泉花 : 泉太郎の姉弟子で、現在「二ツ目」の女流講談師。自身の真打昇進を目指して悪戦苦闘しつつ、弟弟子の泉太郎の扱いにも何かと気を揉む毎日。OLを辞めて講談の世界に飛び込んでおり、サラリーマンの夫と二人暮らし。

初音 : 泉花たちが訪問した高校で開催した「学校寄席」をサボっていたことがきっかけで泉太郎と知り合った女子高生。最初は講談に全く興味が無かったが、次第にその面白さにのめり込んでいく。実は本人の知らないところで講談とは深い縁があって…

『ひらばのひと』のここが面白い!

① 正直でフラットな視点から描かれる「講談」の魅力

この作品の大きな魅力のひとつは、「講談ってこんなに面白いんだよ!」的な、ヘンに肩に力の入った押しつけがましさが皆無なところです。

講談という芸能が置かれている現状をきちんと認めた上で、講談の魅力を盛り過ぎることも卑下し過ぎることも無く、その魅力を正確に伝えようという真摯さが感じられます。

人気の面や派手さでは落語には敵わない、と潔く認めた上で、それでも講談には講談としての魅力があることを静かに訴えかけていて、それがじわじわと伝わってきます。

この方向性が、元々の作者の着想時点での意向なのか、それとも監修の六代目神田伯山氏のアドバイスなのか分かりませんが、作品全体に程よいリアリティを持たせる効果を与えています。

また、修行系・人間成長系の漫画にありがちな「絶対的な才能を持ったライバルの出現」とか「若手が一堂に会してのトーナメント」のようなモロにマンガ的なギミックもありません。

少年誌の読者ならば、「ライバルとの死闘」や「地獄のトーナメントでの激闘」がないと物足りないのかもしれませんが、大半の青年誌の読者はそれらに食傷気味なので、そんな大仕掛けは不要なのです。

むしろ、それらが無いことによって、芸事においては「ライバルは他人ではなく、自分自身なのだ」という当たり前のことに気づかせてくれます。

だからこそ、淡々した日常を丁寧に描くことで、その中で登場人物たちは日々「静かに」闘っているのだということが説得力をもって伝わってくるのです。

② リアルで「正直な」人物描写

大きな仕掛けやギミックがなくても、グイグイと引き込まれるように読んでしまうのは、その人物描写のリアルさ、というか「正直さ」です。

一番分かりやすいのが、泉花の人物設定でしょう。
なにしろ、この人は先輩なのに全く先輩らしくありません(笑)

男というだけでチヤホヤされる泉太郎にジェラシーを燃やしたり、泉太郎に的確なアドバイスを与えらずに苦悩したり、自分の高座で大失態を演じたり…

かといって、泉花が特別「ダメ人間」である訳でもなく、これが現実のリアル先輩の姿です。
なにしろ、先輩だって修行中の身なのですから、完璧であるほうがかえって変なのです。

普通、この手の物語の「先輩」は、後輩に対してビシッとアドバイスを与えられる完璧超人として描かれることが多いのですが、この作品では現実に即してちゃんとリアル寄りに描かれています。

私は個人的には泉花のような性格の人は苦手ですが、泉花の持つ人間臭さ」や「強さも弱さも併せ持つところはキャラクターとしてとてもリアルで、愛らしくて好きです。

この作品では、他にも師匠や同じ寄席に出入りする落語家なども程よく有能かつダメ人間に描かれていて、なかなかにリアルで愛すべきキャラクターに仕上がっています。

③ 「泉太郎」視点で見るか、「泉花」視点で見るか

実はこの作品、主人公がハッキリしません

公式の紹介ページでは一応「泉太郎が主人公」ということになっているようですが、連載開始時のコミックナタリーの記事などでは「泉花が主人公」と紹介されていたりもします。

しかし、それがかえって物語に幅や深みを持たせる効果を与えているように思えます。

まず、泉太郎を主人公として読むと、まだ全容が見えない「講談」という芸に対して真っ直ぐに突き進んでいくストレートな青春モノ、人間成長モノとして物語を楽しむことができます。

また、泉花を主人公として見た場合は、「講談」という芸事の世界のことはかなりの部分が分かってきていて、その現実に対して「ひとりの人間(女性)としての自分」がどのように客観的に折り合いをつけながら生きていくのか、という人生のストーリーになります。

私は個人的には後者のほうで読むことが多いのですが、もちろん前者の泉太郎の立場で読むこともあります。

どちらが正解ということはなく、どちらで読んでもとにかく面白いのです!

おそらく、作者の久世先生もこの辺は意図的に仕掛けているのではないかと思います。

まとめ

現役講談師六代目神田伯山監修!と聞くと、なんだか恐れ多い感じもしますが、この作品は極めて自然に、私たちが普段目にすることのない「講談」「講談師」の世界を垣間見させてくれます。

古典芸能に全く興味が無い人でも、単純に青春モノとして、あるいは人生における人間の成長モノとしても十分に楽しめるストーリーになっていますので、気軽に読んでいただきたいと思います。

その「おまけ」として、少しでも講談に興味を持つ人が増えるのならば、久世先生や伯山師匠をはじめとする講談師の方々に「しめた!」と喜んでもらえることでしょう。

よろしかったらこちらの作品も…

古典芸能を取り扱ったマンガでいえば、落語がテーマですが、秋山はる先生の『こたつやみかん』も隠れた名作です。古典芸能」+「青春モノ(友情モノ)では群を抜いた傑作ではないかと思います。

特に、ラストシーンは泣ける…

ちょっと前の作品にはなってしまいますが、色褪せない名作なのでぜひご覧ください。

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